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音楽家必携の書「とーくばっく」著者、David Shimamoto氏インタビュー

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「とーくばっく」の著者、David Shimamotoさんにインタビューを行いました。

どんな方か気になっている方も多いのではないでしょうか? 「とーくばっく」とは著名な方々も推薦されている、音を生業に趣味にしている音楽人であれば必携の教本です。

METAFIVEメンバーでいらっしゃるゴンドウトモヒコさんも推薦されています。

「ダブルカセットで宅録を始めて今まで全てが我流、この本を読んでかなりモヤモヤして悩んでたものが無くなりました。 それは”録音のレベルについて”です。

 
METAFIVE(高橋幸宏 × 小山田圭吾 × 砂原良徳 × TOWA TEI × ゴンドウトモヒコ × LEO今井)
 
今回はShimamotoさんの経歴や現在のお仕事、そして使用機材に至るまで細かくインタビューすることができました。

「とーくばっく」の読者はもちろん、「とーくばっく」の購入を検討されている方、是非是非読んでみてください。

David Shimamoto氏について

StudioDesk2
 

それでは、どうぞよろしくお願いします。

 

こちらこそよろしくお願いします。Studio GyokimaeおよびVocal-EDIT.com代表のDavid Shimamotoと申します。

 
 
 

いきなりですが、”Gyokimae”の由来は何ですか?

 
 
 

近鉄奈良駅前にある広場の愛称から拝借しました。同所には行基(奈良時代の僧)の像を囲う噴水があり、渋谷でいうところの「ハチ公前」に相当する地元のランデヴー・スポットとして親しまれています。

 
 
 

なるほど、地名だったんですね。それでは、Shimamotoさんの経歴を教えて頂けますか?

 
 
 
小学生の頃にJ-Popの洗礼を受け、中学、高校と音楽系のクラブに所属しました。折しもTKブームの中、かなりヌルい考えで自分も作編曲がしたいと思い米国の芸大に入学しました。
 
在籍した大学は現代音楽がわりと盛んで、免疫のないままコンテンポラリー・アートの洗礼を受けることになりました。
 
芸大卒業後は日本に帰国し、IT系の派遣業務などを経たのち、1年半ほどSSLスタジオでアシスタントを経験しました。
 
 
 

SSLスタジオで働いていらっしゃったんですね!

 
48chの9000Jが入ったスタジオでしたが、ある放送局がもっぱら自社コンテンツの制作に使用していたので、環境としてはやや特殊だったかもしれません。
 
小編成のオーケストラは毎週のように収録していたのでそちらは勉強になった一方、歌などは1、2回程度、ギターアンプに至っては一度もスタジオで録ったことはなかったように思います。
 
スタジオを離れた後は十数年、音楽からは一旦離れてテレビ放送のインフラ業務に従事しました。日本各地でライブ映像を右から左に流すだけの仕事ではありましたが、映像コーデックに関する知識はこの頃に身に付きました。
 
 
 

スタジオ経験から映像まで幅広いですね。

 
ちょうど世界中の放送局がMPEG2/SDからH.264/HDに移行していた過渡期とも重なります。この期間に、自社サービス用に小規模のライブ動画配信プラットフォームを設計、運用したりもしました。
 
音楽と並び、中学ぐらいから趣味でプログラミングも学んできました。これを言うと歳がバレそうですが…スーパーファミコンを買うお金がなくて、代わりに家に転がっていたPC/AT互換機で遊び始めたのがきっかけだったと思います。
 
 
 

普通はスーパーファミコンはあってもPC/AT互換機が無いと思いますけどw

 
 
 
かもしれませんね。久しぶりに思いだしたのですが、そういえばスーパーファミコンの流行り始めの頃に、いまさら友人から借りたファミリーベーシックで遊んだりもしていました。
 
「やっぱDOS BASICわかんねー スプライトらくちんー」とか言いながら。
 
そういった分野への関心もあってか、ポップスに気分が向いたり、メディアアート的なものに気持ちが振れたりといったことを、わりと最近まで数年周期で繰り返していました。
 
Puredata(Max/MSPに似た、オープンソースの音響生成ツール)を使いこなしたくて、レイテンシを低減する必要悪からLinuxを学んだり、Cで書かれたソースコードを読んでみたり。そこで得た知識が、のちに「とーくばっく」の前半を書くのに役立ったりもしました。
 
 
脚注:藤本直明さん作 ”Immersive Shadow” においてサウンド・デザインを担当。来館者の動きに応じて異なる音声をリアルタイムで生成するプログラムを制作。
※「魔法の美術館」出展作品として、日本各地のほか、国外でも展示中
 
 

ボーカル補正サービスはいつ頃からはじめられたんですか?

 
 
 
放送インフラの業務と並行して趣味の音楽も続けていたところ、ちょうどいまから10年ほど前にご縁があって、ある企業のボーカル補正を請負う副業を始めました。
 
不思議なもので、音楽で食べていくことを諦めた途端に、時給換算すると悪くない収入を音楽を通して得られるようになりました。細くとも長く続けていると、何が起こるかわからないものです。 
 
それまで口コミだけでユーザを広げていたボーカル補正サービスでしたが、その後、2017年半ばに前職を辞めたのを機に初めて看板を表に掲げ、主業務に格上げしました。
 
ですので、補正業務のサイトなどは比較的新しいですが、来春(2019年)でこの仕事を始めてちょうど10年になります。 
 
最近はボーカル補正のついでにミックスを依頼される案件がぽつぽつ出てきました。ですので、公正であるなら「ボーカル補正専門」スタジオの看板は近々下ろさねばならないかもしれません…
 
 
ボーカル補正を専門に行うスタジオです。豊富な実績より培ったスピードと品質にて、音楽制作のお手伝いを致します。

使用機材について

StudioFull
 

それでは機材についてお聞きします。まずはこの真紅の空間について教えて頂けますか?かなりチューニングされているように見えますが・・・。

 
 
 
一般的な木造家屋の6畳間をベースに、床以外の4面と天井には、ほぼ隙間なく防音シートと5cm厚のグラスウールボードを貼り、上からクロスを貼っています。
 
窓は二重窓になっています。防音(外部からの音の出入り)はハナから諦めて、せめてスピーカーの音は正確に聴こえるよう吸音に重きを置いたセッティングになっています。
 
他にSONEXのベーストラップを部屋のカドに積んでいますが、これは若気の至りで導入したところもあり、効果があるかどうか、あるいは自分の再生機器が必要としているかは正直よくわかりません。
 
 
 

やはり機材の性能を引き出すには環境が重要と聞きますが、かなり徹底されていますね。デスクの後ろにカーテンがありますが、これも吸音目的ですか?

 
 
 

遮音カーテン…だったと思うのですが、タダの遮光カーテンだったかもしれません。日の出が差すので、紫外線から愛機を守るため常時閉めています。カーテンの裏も壁と同様に5cm厚のグラスウールボードを置いています。

 
 
 

カーテンの裏もボードがあるんですね。抜かりないなぁ・・。で、それからどうしても・・・スピーカーに目がいってしまいますね。

 
 
 
メインで「Musikelectronic RL906」を使用しています。これは、20年近いお付き合いになる同郷の友人であるMORGの門垣君の勧めで導入しました。
 
それまで使っていたモデルに飽きて代替品を探していたとき、ちょうどスタジオメンテで空いているペアを2,3日貸してもらえることになりまして。持ち帰って聴いてみたところ、一耳惚れしました。
 
 
 

音に拘りをもつDTMerは「いつかはMusik」的な憧れを持っている人もいるかと思うのですが、他のスピーカーとの違いは何でしょうか?

 
 
 
私見ですが、モニタースピーカにはいくつかのレベルがあり、 Lv.1=ミックスの良し悪しが判断できるもの Lv.2=良し悪しを決定づける要因が即座に指摘できるもの の間には大きな隔たりがあるように思います。
 
おそらくその加えてLv.3以降には、見つけた問題に対処する作業のしやすさなどもポイントとしてあるのでしょうが。 
 
RL906は実際に自分の環境で鳴らしてみて部屋にマッチしているように感じたのと、多くの方がお使いなので安心かと思い、わりと勢いで選びました。 
 
なので同価格帯の他と比べてどうとは言いにくいのですが、少なくともそれまでに試したどのニアフィールドよりも、長年市販楽曲に対して疑問に感じていたイロイロが見えるように感じました。 
 
それまでメインボーカルに薄っすらとコーラスが掛かっているのに全然気づけなかった盤があったことが判ったり。
 
 
 

そう聞くとやはり良いモニター環境を構築することが良い音を作る最も近道というのは間違いなさそうですね。それに生産性も上がりそう・・・技術さえあれば。

 
 
 
海外のTipsなどで、ミックスやマスタリングに対する基本姿勢として「どのような環境でも破綻しないことがあらかじめわかっている楽曲をリファレンスに選び、ストイックにそのバランスに近付ける」アプローチが紹介されているのをよく見かけます。
 
ミックスのバイブルと評価の高いMike Senior氏の著書 “Mixing Secrets of the Small Studio”では、マイ・リファレンス・ライブラリの構築手順についてまるまる冒頭の章が割かれているほどです。
 
この概念はRL906クラスのものを導入して初めて、感覚的に理解できたように思います。
 
StudioDesk1
 

欲しくなる要素が詰まり過ぎてて、もうすっかりRL906が欲しくなってしまいました・・・。他のスピーカーは検討しなかったんですか?

 
 
 
実はその少し前に、楽器店で試聴したEVE(確かSC208)にほぼ決めていたのですが、念のためにとデモ機を取り寄せたところ、低音が暴れて我が家の環境では使いものになりませんでした。
 
マニュアルを見ると、基本的にはリスニングポジションから2~3m離れた場所への設置を推奨、とありました。でもそんなもの、6畳間では配置しようがないじゃないですか。 ある程度の径があるスピーカは、ちゃんと使用環境でテストしてから選ぶことの重要性を学びました。
 
あわや高い勉強代を支払うところだったかもしれません。 Musikもたいがい高くつきましたが…商用スタジオでもそこそこ使われており、資産価値もあるならいいかな、と。
 
 
 
 

ほとんどの宅録DTMerが、6畳前後のスペースだと思いますからとても参考になります。それにしても羨ましい限りです。サブモニターがひとつしかありませんが、これはどういうことですか?

 
 
 
Avantone Active Mixcubeですね。いわゆるAuratoneクローンです。これは先述のMike Senior氏が著書で強く勧めていたので導入しました。 
 
「想定しうる最悪のシステムを再現する装置」と誤解されがちですが、ユーザとしてはそれとも少し違うように思います。ロー&ハイが全然出ない代わりに、それ以外の帯域の解像度が非常に高いです。
 
特にActiveMixCubeは、いくつかあるAuratone代替品の中でも特殊で、むしろハイファイだという評はよく見かけます。 
 
これでアンサンブルの柱となるパートが埋もれずグルーヴなどの音楽性が損なわれていなければ、大抵の再生環境における失敗は回避できると思います。
 
用途はやや特殊ですが、解像度あたりの価格なるものがあるとすれば、おそろしくコストパフォーマンスの高い製品だと思います。
 
とはいえ、自分はMonoでしか使うことがないだろうと判断し、かなり以前にペアの片方は売却しました。
 
 
 

Avantone Active Mixcubeをサブスピーカーで入れたくなってきました・・・。導入するとなればもちろんステレオですが、ミキシング・マスタリング用途のサブスピーカーとしても効果は見込めますか?

 
 
 

ミックス用のサブとしては強くお勧めできます。マイクでもなんでもそうですが、業務クラスの機材って上を見ればキリがないじゃないですか。その点、用途は特殊ではありますけど業務レベルのモニタ機器としては破格で入手できるわけですし。

 
 
 

なるほど、他の機材との併用前提で用途を絞り高い効果を狙っていけそうです。RL906の下に敷いてあるボードはどこのメーカーのものですか?

 
 
 

スピーカのアイソレーションパッドはAuralex ProPADです。 インシュレータ類は好き好きの部分も多いのでこれまであまり目を向けてこなかったのですが、近頃話題の某インシュレータは多くの方が絶賛されているので気にはなっています。

 
 
 
某インシュレーターはぼくも気になってますw
ケーブルは何を使用されていますか?
 
 
 
ケーブル類は、数は少ないながら(I/Fからモニコンまで1ペア、モニコンから3台のスピーカへ各1本)あるメーカの物で揃えています。ただ炎上案件の予感がするので詳細はご容赦ください…(苦笑)
 
おそらく悪いものではないであろうことだけ申しておきます。
 
アナログアウトボードを使うためにDA/ADするのであればケーブル周りにこだわる必要もあるのでしょうが、ケーブルによる影響がどうであれとりあえず必要なものが見えさえすれば、リファレンスに近付ける作業はできるので神経を使わなくて済むのもIn-the-boxにこだわる理由のひとつです。
 
 
 

うーん、超気になりますが色々とご事情もあるでしょうし、仕方ありませんね。それでは次に、ヘッドホンについて教えてください。

 
 
 
「Audio Technica ATH-M50(非xの旧モデル)」と、「Sony MDR-CD900ST」を使用しています。 
 
昔在籍していたスタジオではAudio Technica A9(かなり以前に生産終了)がチーム内の標準になっていたので、それ以降なんとなくテクニカの音になじんでしまい、こちらを使っています。
 
900STは2001年頃に購入しました。DTMerの中には、憧れの900STを入手はしてみたものの「えっ、これが業界標準の音!?」と戸惑った方が大勢いらっしゃると思います。私もその一人でした。 
 
長らく放置していたので本来ここに書くほどでもなかったかもしれませんが、最近になってようやく使いどころが見えた気がして、使用頻度が増えています。 
 
まだ実験中のためうまく説明する言葉を持ちませんが、今後音圧競争もひと段落して「ダイナミックレンジよし」「分離よし」な楽曲が増えれば、サブ・モニターとして近々再評価される可能性もあるモデルだと思います。
 
 
 

スピーカーと比較して、ヘッドホンは我々にも手が届くものでホッとしています。高級ヘッドホンを使用しないのには理由がありますか?

 
 
 
単一のモニタ機器でミックスのすべてが見渡せたら理想的ではありますけど、残念ながら現実にはそれぞれの機器でしか見えないものがあります。
 
私見ではありますが…所有機器における代表的な例として、RL906ではトラック間のバランス、エフェクトの量、ダイナミクスなどはよく見えますがローの量感はそれほどわかりません。
 
なのでATH-M50で補っています。そんな風にそれぞれの機器の特性を幾分か把握して弱点を補いあえていることの方が、個々の機器が高級であることよりも重要だと思いますし、これまでヘッドホンを強化する必要性を感じなかった理由でもあります。
 
と言いつつ、おかげさまで最近ミックスの依頼が徐々に増えてきたのでもう少し作業効率を上げられたらと試みに注文したHD600が数日のうちに届くことになっています。
 
 
 
Active Mixcubeもそうですが、用途を絞り補い合う機材の選択というのは非常に効果的かつ、予算をかけずに良い環境を築けそうです。参考になります。
 
CD900STはぼくも使用しています。優秀なヘッドホンだとは思うのですが、巷でも耳にするようにミックスには向かないと考えています。Shimamotoさんはどう考えてますか?
 
 
 
先ほどの話にも関連することであり、つい先日ツイッターにも少し書いたのですが、過去の作品で良音質とされる盤は900STではどれもクリアに聴こえることに気付きました。クリアというだけで、気持ちよく聴けるのとはまた別ですね。
 
一方、ローがダイナミックでもボーカル単体ではVUメータがほとんど振れないであろうタイプの現代的なミックスは、大体ダンゴに聴こえるように思われました。
 
どちらのサウンドを志向するかどうかは好き好きではありますけど、主役となるパートもダイナミックに振る舞うようなミックスを目指す場合、900STはリトマス試験紙として悪くないと思います。
 
先ほど言いましたように900STは購入から15年近く放置していたので、この視点については来週には違うことを言っているかもしれませんが…あと、よく言われるように素材のノイズを探すときなどには優秀だと思います。
 
 
 

そういう観点で900STを使ったことはなかったですね。過去の名盤を聴いてみたいと思います。一概にミックスに向かない、とは言えなさそうですね。次はオーディオインターフェースについてお願いします。

 
 
 
2年ほど前からAntelope Pure2を使用しています。
 
私が書いた、YouTubeに最適化したマスタリングに関する記事をご覧になった方からマスタリングの依頼があったのですが、それがまた非常にお断りしづらい筋からでして… こりゃ中途半端なことはできないなーと思い、予算内で最低限2in/2outを持ち、もっとも音がニュートラルであると判断したモデルです。 
 
はじめは買い替えるつもりはなく、とりあえず現在のI/Fでどのぐらい損をしているかを把握しておこうと思い、楽器店にノートPCとI/Fを持参し、いろいろ聴き比べててみまして。 
 
持ち込んだI/Fではホワイトノイズにしか聴こえなかったハイハットが、より高価なI/Fではちゃんと金属を叩く音がしていたのはかなりショックでした(苦笑)こうなると多少背伸びをしてでも買い替えざるをえず、初めてローンを組みました。
 
USB2.0接続もできる機器ですが、最近思うところあってLynxのPCI-Eカードを経由してのAES/EBU接続に変えました。
 
 
Pure2
 

仕事がきっかけというのは思い出深いですね。同価格帯でRMEのUCXや、Apolloなどもあったと思うのですが、候補には挙がらなかったのでしょうか?あと、接続方法を変えた”思うところ”というのは?

 
 
 
うろ覚えですが、UCXは試したように思います。マルチチャンネルのI/Fとしては優秀ですが、UCXに限らずI/Oチャンネル当たりの価格差はそれなりに品質にも表れていた印象を受けました。
 
また、Windowsユーザであることと利便性から、USB接続の機器に限定して試していたことからApolloは除外したように覚えています。
 
I/FのUSB接続をやめたきっかけはですね…少し前にお邪魔したあるアーティストの自宅スタジオで、ホントいまさらではありますが、これまでなんとなく意識的に避けてきた「USBケーブル交換による音質差」を目の当たりにしてしまいまして。
 
ちょっとしたミックス品評会みたいな場だったのですが、満場一致で指摘されていた複数のミックスの粗が、USBケーブル一本を交換することですっかり消えてしまって…良し悪しとは違う軸で、ミックスバランスががらりと変わってしまい、どちらが正解かわからない状態になってしまいました。
 
余談ながら、帰宅後に同じ音源を自分のシステムで聴くと、やはり高価な方のケーブルに近いバランスだったわけですが。

USB自体がクロックのタイミング精度を確保することが技術的に難しい規格であることは以前からそれとなく耳にしていましたので、ケーブルであれこれ悩むぐらいならいっそ自分のシステムからは排除してしまえ、と。
 
実際に行動に移す前にメーカからAES/EBUが出力可能なPCI-Eカードを借りて、少なくともPCI-EカードにAES/EBUを吐かせる方が手元のどのUSBケーブルよりも音が生々しくなることは確認しました。ただ、この点は環境依存の部分もあると思います。
 
コンバータのリクロック技術も年々向上していると聞きますし、いずれUSB方式の粗ごときに影響を受けないI/Fが主流になれば、デジタル・ケーブルにこだわる必要はなくなるかもしれません。
 
 
 
USBケーブルに差があるか否かという話は聞いたことがあるのですが、USB意外との比較は考えたこともなかったです。しかしそこまでの違いがあるとは・・・新たな知見を得られました。(これを沼とも言う)
それでは、モニタ・コントローラについてもお願いします。
 
 
 

NOS McONEを使用しています。イスラエルのガレージ・メーカによるパッシブ・スイッチです。噂では、過去にWavesでハードを設計されていた方によるメーカだそうです。

 
 
 

Wavesもイスラエルですもんね。

 
 
 
スピーカが複数になったのを機に導入を検討した折、その頃の有名どころでは初代Big KnobかPresonusの2択であったかと思います。それより上になると、SPLのものはやや高額でした。 
 
普及製品と価格帯の近いMcONEがGearsltuzで好評でしたので購入してみました。比較対象がないので音についてはあまり語れませんが、感触のガレージメーカ感は抜群です。
 
 
 

DAWは何を使っていますか?

 
 
 
この1年ほどはPro Toolsを使用しています。2年ほど前からボーカル補正の業務でPTセッションでの交換を希望するクライアントが増えてきまして、せっかく導入したのだからと他の作業にも使い始めたところ、思いのほか使いやすかったので、以降愛用しています。 
 
それまではCakewalk Sonarを使用していました。最近はめっきり使用する機会がなくなったので立ち上げていませんが、今後もシーケンスを組む必要が生じたらCakewalkを使用すると思います。
 
同シリーズをVer.3(当時3.5inchフロッピー1枚)の頃から使っていた筋金入りのドザーです。

一応古いMac Book Proも手元にはあるのですが、送られてくるzipファイルの文字化け回避のための解凍専用マシンになっています。
 
ときどきネットでも話題になりますが、セッション関連のファイルは半角英数に統一していただくよう、この場を借りて私からもお願い申し上げます。
 
 
 

Sonarもあんなことになってしまって寂しい限りですね。プラグインは何を使用していますか?

 
 
 
わりとベタです。コレクターみたいに詰む経験も人並みにして、ここ数年は安牌しか踏まないよう注意しているので… よく使うのは、
 
・Balance Analog Magpha EQ 
・Black Rooster Audio VLA-2A 
・Brainworx bx_console SSL E/G 
・DMG Audio Equillibrium ・ELI Arousor 
・Soundtoys Little MicroShift 
・Vertigo VSC-2 
 
あたりでしょうか。 リバーブやサチュレータはそれぞれ3~4つを使っていますが、まだ研究中でこれといった定番はありません。
 

あと、最近はミックスする曲のだいたい半数ぐらいでbx_townhouse Buss Compressorを2バスに使用しています。

エフェクトではないですが新規セッション作成時には真っ先にマスターアウトに ・ADPTR MetricAB ・Voxengo SPAN を立ち上げます。MetricABは、もはや手放せません。
 
 
 

MetricABは素晴らしいですよね。わかりやすくて、ぼくも大好きです。では、今後使ってみたい、気になっているプラグインはありますか?

 
 
 
とりあえずセール待ちの買い物リストには、
 
・Soundtoys Echoboy
・Soundtheory Gullfoss(Win版リリース待ち)
・Cableguys VolumeShaper 
・Blue Cat Patchwork 
 
があります。
 
 
 

さすが、渋い選択!大変参考になります。GullfossはもうすぐWindows版がリリース予定ですね。ちなみに、アウトボードは使用されないのですか?

 
 
 
ご覧のとおり、完全にソフト・オンリーの環境です。 
 
もう10年以上、あえてIn-the-boxにこだわってきましたが、近年モニタ環境の重要性を思い知るほどに、いわゆるプロジェクトスタジオの規模ではツールよりも先にやるべきことがあるなぁという思いを強めています。 
 
とはいえ、SSL Fusionはとても気になっています。
 
ちょうどI/FのIn/Outが2chずつ、暇そうにしていることですし… さて、いろいろ挙げましたが、けっきょく業務の大半はボーカル補正ですので、触れている時間でいうとPro ToolsとMelodyne「だけ」が圧倒的に長いです。
 
 
 

実に興味深いですね。ブラックフライデー期間中ですし、この記事を読んで頂いた方は触手がムクムク動いてるんじゃないでしょうかwそれから、マウスの他にコントローラーがあるのも気になりました。

 

作業効率には常に気を遣っていますので、PCの周辺デバイスにはエフェクト以上に強いこだわりがあるかもしれません。

マウスはLogitech G900を愛用しています。

また、数ヵ月前にはRazer Tartarus 

V2を導入しました。やや競争に関わることなので詳細は語れないのですが、これは「左手でもマウスクリックを実現する」ことだけを目的としています。

さすがにFPS用として高評価のゲーミング・デバイスはよく手に馴染むなぁと感じます。カーソルの移動速度もOSの標準的な設定項目よりも細かくカスタマイズできますし、自分が道具に合わせなくても道具の方からこちらに歩み寄ってくれるといいますか。

作業中にゾーンに入ると「Melodyneは横シュー」と感じる瞬間もあるので、親和性は高いかもしれません。

 

talkback
 

それでは「とーくばっく」についてお聞きします。ずばり、制作しようと考えた経緯は何でしょうか?

 

近年は自身の創作はほとんどしなくなりましたが、以前は私もDTMerとして趣味で作曲を楽しんでおり、また多くの方と同じように「音圧上がらねー」と悩んでいました。

一方で…これも同じように感じられた方が少なからずいらっしゃると思いますが…どう考えてもマキシマイザでピークをガチガチに揃えない方が、開放的なサウンドになるようにも感じていましたので、なんとなくメジャー曲の傾向だとか、そういったサウンドを作ることばかりを促すハウツー集や雑誌記事に疑問を感じつつも、具体的に問題点を指摘する言葉を持ちませんでした。

 

すごくわかります。周りと同じ音の大きさにするべく、必要以上に音圧を上げなければいけないと考えるあまり、苦心していましたので・・・。

 

そんなとき、Gearslutz(音楽制作に関する海外のオンライン・フォーラム)で「マスタリングのバイブル」と称賛されていたBob Katz氏の”Mastering Audio (第2版)”という本を手にとりました。2010年の秋でしたので、ちょうど8年ほど前のことです。

 

Bob Katz氏はグラミー賞を受賞したアルバムをマスタリングしたエンジニアで、K-Systemの考案者ですね。

 

同書には「収録レベルを上げるためだけのマキシマイズ(以下、マキシマイズ)」を行うことが百害あって一利なしである理由が整然と述べられており、あぁ自分は間違っていなかったんだな、と…目からウロコをたくさん落すと同時に、なぜこういった情報が日本のコミュニティでは共有されていないのだろう?と日々疑問を抱きながら悶々と過ごしていました。

 

海外ではたくさん文献や情報があるのに、日本は音圧の弊害について言及するエビデンスが少ないですよね。ネットでは多少見かけますが、どちらかと言うと音圧を上げつつキレイに保つには?という方向の様なものが多いような気がします。

 

そうですね、言語の壁に阻まれてか、文化のギャップのようなものを痛感していました。

ただ、今振り返ってみると同書第2版の内容では、当時日本でよく見られた「リスナーorアーティストが望んでいるから高音圧が正解」とする向きを説得する材料としては弱かったかもしれません。(そういった声も”Mastering Audio”をよく読めば幾分か誤解に基づくものであることは理解できるはずなのですが)

しかし、その後発行された”Mastering Audio”の改訂3版では、iTunes Radioがラウドネス・ノーマライゼーションを導入したことが説明され、またこれにより音圧戦争が終わったことを高らかに宣言する章が追加されました。

この本が出たのが2013年のことですので、まだApple以外の配信業者はおろか、YouTubeさえもラウドネス・ノーマライゼーションの運用を開始する以前のことです。

後にKatz氏が予見したとおりに物事が進んだのは、現在皆さんの知るところと思います。

 

ラウドネス・ノーマライゼーションの登場により質感を犠牲にしてまで音圧を求める必要がなくなりましたよね。

 

2013年時点の英語圏では、マキシマイズするかどうかが嗜好の問題どころではなく、すでに具体的なデメリットを伴うことが広く論じられていたその頃、日本では相変わらず高音圧至上主義が横行していました。

音圧戦争終結が宣言された改訂3版を私が入手したのが2014年の秋でした。前作に気付きを与えられてから実に4年間、言葉の壁の向こうではドンドン物事が進んでいたにもかかわらず、日本ではなにひとつ状況が変わっていなかったわけです。

 

言葉の壁であったり、島国なことも要素としてあるのかもしれませんね。音圧までガラパゴス化していると言えそうです。

 

すでに何ヵ国語にも訳されている”Mastering Audio”がなぜか日本に来ないことにいよいよ痺れを切らし、Katz氏のメッセージ…もとい、この頃にはすでに「世界の常識」となっていた収録レベルに対する考え方を広めたい一心で、自分で本を作ってしまった…というところです。

 

誰もやらないからこその使命感みたいなものも感じますね。

 

もっとも、マスタリングの話題をより広範に論じるKatz本からラウドネスの話題だけを取り上げてママ紹介したのでは劣化コピーに終わってしまいます。

それではKatz氏にも失礼に当たると思い、「とーくばっく」制作時にはマキシマイズのデメリットについての論点を押さえながら、解説のアプローチや問題の背景は日本のコミュニティに向けてローカライズし、ほかにも読者に興味を持っていただけそうな話題(多くが自身の研究結果)も加えました。

 

音に関する情熱は元より、ご自身の経験と英語のスキル、どれかひとつでも欠けてしまったら「とーくばっく」は生まれていなかったでしょうね。最後に読者の方へのメッセージを頂けますか?

 

古い方では、本の制作につながる執筆を開始した2014年頃からご支援いただいておりました。

おかげ様で初版から累計1,500部以上が皆様の手に渡り、特に第2版は制作を決めたときの目論見どおり、私もコアな読者層も望んでいたであろう「一番届いて欲しい方々」に届いていると複数の筋からうかがっております。この場を借りてご支援、ご協力、あらためてお礼申し上げます。

まだ手に取られていない方々は、第2版も残数わずかとなってまいりましたので、この機会にぜひ。同価格帯のプラグインよりは制作物のレベルアップに繋がると思います。

 

本日はためになるお話、それから機材のお話まで詳しく教えて頂きありがとうございました。何か告知はございますか?

 

12月2日(日)に大阪・難波で開催される音楽系即売会 音けっと に、「とーくばっく」の販売ブースを出展予定です。 https://otoketto.jimdo.com/
あの、私、そんな全然大したアレじゃないので。 どうぞお気軽に遊びにいらしてください。

 

それでは本日はお忙しい中本当にありがとうございました。貴重なお話がたくさん聞けましたし、機材のお話もたくさん頂けて感謝しています。

 

ありがとうございました。

 

さいごに

いかがでしたでしょうか。

既に読者の方もShimamotoさんのことをより深く知れたのではないでしょうか。

インタビュー前はちょっと怖い人なのかな?とも思ってましたが、全くそんなことはなく、とても紳士で気さくな方でした。

そんなShimamotoさんの著書「とーくばっく」がセール中です。

音楽制作者のバイブル「とーくばっく~デジタル・スタジオの話~」がブラックフライデー送料無料キャンペーン開始!

プロ・アマ問わず支持を得ている本で、音に関係するお仕事・趣味をお持ちの方は必携の書となっていますので是非読んでみてください。

「難しい本じゃないの?」という心配はご無用。とても読みやすく、理解が深まります。

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David Shimamoto

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