音楽制作において重要なもののひとつに「個性」があります。
全く同じことをやっても、どうしてもにじみ出てしまうその人の色というヤツです。
では何故、個性があると感じるのでしょうか。要因は様々ですが、そのひとつに「道具」の選択があります。個性的な方は選ぶ道具も個性的なのです。(道具は普通でも使い方が個性的だったりもする)
今回ご紹介するのは100人中150人(見てない50人も賛同する程w)が「個性的」と言ってくれるであろうシンセサイザー、Tracktion「Biotek」です。
“オーガニックシンセサイザー” Biotekとは
高度なシンセサイザーエンジンと、自然音のサンプルを掛け合わせて超強烈な個性を発揮するシンセサイザーです。普通の音から凄いまで幅広い音が出せます。
見た目からして個性的ですよね。第一印象は「とっつきにくい」って方がほとんどではないでしょうか。パッと見で気に入った方、そんなあなたは変態です(誉め言葉w
しかし、単なる個性的なシンセとしては片づけられないほど奥が深いんですよね。映画音楽作曲家にもユーザーが多いようで、その実力は計り知れません。
シンセ基本構造
1レイヤーの中に4オシレーターという階層構造になっています。レイヤーは無限に(CPUの許す限り)作成可能。オシレーター部分で【ヴァーチャルアナログシンセ】【FM音源】【自然音サンプル】の何れかを選択できます。
ヴァーチャルアナログシンセとしては、正弦波・三角波・パルス波・鋸波・ノイズ(2種)などの基本波形を備えています。ここだけ見ると普通の子ですねw
こだわりぬいたオーガニック・サンプル
オシレーターには、基本波形の代わりにサンプルを設定することも可能です。鳥のさえずりから、機械音、ドラムループまで多種多様なサンプルが用意されています。環境音みたいなものが多いです。で、そのサンプルのコダワリようが凄い。
BioTekの自然音、環境音のサンプルは、ワシントン、オレゴン、カリフォルニア、ノースダコタ、ワイオミング、コロラド、アリゾナ、ハワイの地で、20年以上をかけて集められた、Mike Wallのフィールド・レコーディングのコレクションが使われています。インダストリアルなサウンドは、シアトル近郊のいくつかの工場で収録されました。様々なステレオのマイクロフォンを駆使して、高解像度ローノイズで収録、過酷なフィールド・レコーディングに耐えるたえめ、専用にカスタムされたデジタル・レコーダーを使っています。すべてのサンプルは注意深くマスタリング、ループ設定されています。
なるほど、荘厳な音の素性はこのような部分からくるんですね。自然で有機的なサウンドでありながら、浮きまくることもなく、シンセサイズしやすい印象です。
サンプルを活用したFM音源がキモ
最近なにかとリバイバルな雰囲気のFM音源も搭載してます。
オシレーターはアルゴリズム(10種類)が選択可能となっていて、オシレーターの配列を組み替えて、4OPのFM音源として使用できます。結構音良いですw
例えば、レイヤー1でヴァーチャルアナログシンセを作って、レイヤー2でFM音源と重ねるってことができるんですね。ヴァーチャルアナログだけでは出せない表現が可能なため、かなり深い音作りができます。
あと勘が良いシンセマニアはお気づきかもですが、モジュレーターにサンプルを使用してオシレーターに突っ込むことができるので、予測不能なクレイジーな音がでます。これが凄いw
で、ただ狂った音ではなく、ノイジーにならないように調整されているところが真骨頂なのかなと。
FM音源知っている人であれば要領はすぐつかめるはずです。知らない方でも結構直感的に音作りできると感じました。FM音源と聞いて拒否反応起こさないようにw
ベーシックなシンセとしても使える
個性的な部分が目立ち過ぎてるBiotekですが、もちろんベーシックなシンセとしても使えます。
上記の動画を見えてもらえばわかるのですが、なかなか良い音してます。アナログシンセ的な音や、ベーシックなFM音源は割とすぐに作れました。フィルターも滑らかでクセがなく、王道なシンセサイザーって感じです。
デジタル臭さがなく、オーガニックなサンプルともマッチングします。素直な音。
例えばユニゾンでブ厚くするような、デジタルなEDM系の音はちょっと苦手かもしれません。作れないことはないですが、ちょっとベクトルが違うのかなと。
操作性に関して、シンセに慣れている人であれば、少し触ればだいたい使い方はわかると思います。ただ、初心者にはちょっと難しい印象がありますね。慣れが必要です。
モジュレーションマトリクス
かなり突っ込んだ音作りが可能です。音色に生命を吹き込むかの如く、複雑なモジュレーションを組むことができます。
モジュレーションルートは実に200。
表示しきれませんw
先に触れたオーガニックサンプルを用いたFM音源変態音と組み合わせると、人間では想像できない、コントロール不能な音作りが可能でしょう。
これはかなり使い込まなければ全容が把握できる気がしないです。
ただひとつ言えることは「一生遊べる」ということw
コンプリート・コントロール
やはり目を引くのは「Biotek Ring」と呼ばれる、GUIの中央に鎮座しているXYパッドコントローラーですね。
オレンジ色の「●」をドラッグして動かすことで、リアルタイムに音色を変化、モーフィングさせることが可能です。往年のベクターシンセを彷彿します。音色変化と同時にグラフィックも変化します。何とも独特な気持ちになる・・・w
ただの音色変化ではなく、先述のモジュレーションマトリクスを関連付けることで膨大な情報の変化を、マクロコントロール出来るんですね。
FM音源の時間的な音の変化を掛け合わせると、かなりダイナミックで変態的な音作りが出来るのではないでしょうか。
ライブでも相当目立てること請け合いですw「どうやって出してるのこの音?」という反応がありそう。
負荷について
先述したように、Biotekはレイヤーを際限なく追加できるという男前な仕様なのですが、同時発音数に比例して負荷は増大します。
とは言っても、普通に使用する分には負荷はそこそこです。プリセットの中で負荷高いものでもCPU使用率が1/3を超えるものはありませんでした。当然ですが環境によります。当方スペックです。
OS・・・windows10 64bit
CPU ・・・Intel Corei7 3.2G
メモリ・・・32GB
動作はかなり安定しています。Biotek Ringでグリグリして遊んでも落ちたり不安定になることはありませんでした。制作が佳境に入ってくるとそうはいかないかもしれませんが、単体で鳴らす分にはかなり無茶をしても、当方の環境では全く問題ありませんでした。
さいごに
まだまだ使い込んだワケではないので、全容を把握しておりませんが、ひとつ言えるのは本当に超個性的なシンセで、万人ウケするシンセではないということ。音もGUIも変わってます。
オーガニックサウンドを使用したFM音源で、モジュレーションマトリクスを掛け合わせ、Biotek Ringでリアルタイムコントロールする、こんな使い方を極められれば突き抜けられること間違いナシ。
しかし、この独特な世界観は他のシンセでは決して味わうことができません。他の誰も出さない音を出すという目的であれば、最短距離な一手となるでしょう。まずは人と違う道具を選ぶ時点で差が付きますよね。
ってなわけで、こんな人にオススメできるのではないかと。
・普通のシンセに飽きてしまった
・変わった効果・音を表現したい
・シンセからインスピレーションを得たい
・心ゆくまで変態的な音が出したい
こんな感じですかね。特に感じるのは、自身が想像した音を出すシンセではないのかなと。そのような一般的な使い方ではBiotekの真価は発揮できません。
ある程度の方向性は必要ですが、Biotekの出音自体にイマジネーションを掻き立てられる、想定外の効果が得られる、そんな唯一無二のシンセです。
ではでは。
Tracktion Biotek 2